高めの丘から眺める景色。
蒼い空と赤茶の大地が遠く続く。
地に思い出したように点在する荒れた建造物。
三国と呼ばれる過去の異国のものと、
自らが駆けた戦国の世のものと。
この景色を見るたび思った。
ここで人と会うたび思った。
記憶の靄の中で、悲しい違和感が広がる。
どうしても思い出せない記憶がある。
どうしても甦らない感情の熱がある。
「三成殿は…いつの、三成殿なのですか」
聡明なこの人なら、答えてくれるだろうか。
そう思って、つい口に出して問うてしまった。
先を往くその人の足が止まり、整った顔がこちらに向けられる。
唐突な言葉に、薄い色の瞳は見開かれていた。
じわりと、恐れと後悔が胸に湧く。
答えてくださるな、と瞬間思った。
「『いつ』とは、どういう意味だ」
鋭く、いつもの真摯な声音で返ってきた。
それに幾ばくか安堵して、躊躇われた先の言葉へ進める。
「三成殿が…私と知り合い、世が太閤の世になり、その先で…」
「俺の記憶がどこまであるのかを知りたいのなら、『最期まで』と答えよう」
どう言って良いかわからずに口篭っていると、それを遮って彼は答えを述べた。
その自分にとって酷い答えを、あまりに涼やかに穏やかに言うので、
先ほど湧いた後悔は、あっさりと霧散した。
「そう鮮明ではない…だから、詳しくは言えぬが」
お前も同じようなものだろう、と珍しく人に見せる微笑みさえ浮かべて言われる。
聞くのが恐ろしかった答え。
聞きたく無かった酷いもの。
渦巻く違和感に遣る瀬無さを覚えて。
「そう気に病むことも無い…今は、遠呂智の作ったこの世に居るのだから」
そんな自分のくだらない葛藤を、この人は何も無いように綺麗に跳ね除けた。
「三成殿はやはり、すばらしい方です」
「…幸村が気遣いすぎるだけだろう」
ふい、とまた歩みを進めて往くのに合わせ、歩き出す。
この人は関ヶ原で果て、自分はおそらく大阪に果てた。
聞く限りではあの戦乱の後、徳川の世になったという。
それに悲しみも憎しみも湧かないのが、
今となってはもう、どうでも良いことだと思えた。
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