猫の皮 もりたまご 忍者ブログ
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【2024/11/23 06:14 】 |
猫の皮
(半官・SS・黒)






「竹中半兵衛と私が同等であると…何ゆえそう思われるのか」

秀吉の人たらしと評される褒め句を遮り、官兵衛が僅かに低くした声で言った。
それににこにこと笑顔であった秀吉が口を開けたまま目を瞬かせ、不思議そうな顔をする。

「…私は、あの者に才略で敵うと思い上がった事など一度として無い」
「半兵衛の言葉を聞く限りでは、わしはそう思えんのじゃが…」
「………買いかぶりに過ぎませぬ。それでは、失礼」

困ったように答える秀吉の様子に、官兵衛はらしくもなく情を露にしてしまったのを自覚し、後悔した。
これ以上口に出すのは思わしくない。深く一礼をして、追求を退けるようにその場を後にする。



「官兵衛殿こそ、買いかぶりじゃない?」

外の戸の横に凭れ掛かっていた半兵衛が、ぽつりと言葉を投げかけた。

「…いつからそこに居た」

半兵衛は問いに答えなかったが、その楽しむような笑みに今までの話を始終聞いていたのだと、悟る。
官兵衛が煩わしそうに睨みつけているのに、それを物ともせずに半兵衛は猫のような目で見上げてくる。

懐いているようで、獲物を遊ばせて愉しむ賢しい猫のような眼差しである。

官兵衛はその視線に既視感を覚えた。

「官兵衛殿、俺は官兵衛殿のそういうところ、好きだよ」

にっこりと妖しさを含めた笑みを浮かべ、半兵衛は手を伸ばす。
ゆっくりと繊細な作りの指が官兵衛の頬を撫で、確かめるように痣をなぞった。

「最初のときもそうだった…貴方は誰も知らないはずの、俺の本性を見てる」

女人のように艶を持った唇が小さく動き、薄く弧を描いた。

気付けば、魅入っている。この者の思うつぼではないか。
ぎこちなく官兵衛は視線を逸らし、絡んでくる半兵衛を気にせぬよう無理やり足を進めた。

半兵衛はそれにも面白そうに笑い「つれないなあ…」と呟いてから、後に続く。

「私に何用だ、半兵衛」
「別に?ただ、語り明かしたいなーと思ってさ」

自室まで付いて来た半兵衛に、官兵衛は振り返って声をかけずに居られなかった。
無視を決め込めば飽きて離れると考えていただけに、官兵衛は苦々しい声音になる。

それを気にした風でもなく、半兵衛は先ほどと同じく、猫を思わせる捕食者の目で見上げた。
官兵衛は嫌な予感に身を引いたが、細い腕がすばやく動き、器用に技をかけてきた。

咎めの言葉も罵りの文句も呆れに変わるほどの所業だ、と畳みに倒れ内心で舌打ちする。

「…先の話ならば、私から特に言う事は無い」
「俺からはいっぱいあるんだよ。…実直な官兵衛殿には、俺がどう映っているのかな?」

部屋の戸を後ろ手で閉めて、見下ろしてくる半兵衛は落ち着いた声音で問いかける。
しかし問いと言うにはあまりに確信的な表情を浮かべていた。


いらぬ獣の気に障ったようだ。

普段の知らぬ顔とはほど遠いそれを目前にしながらも、官兵衛は口端で笑みを作っていた。




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【2010/07/14 00:27 】 | 両兵衛 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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