(両兵衛・断片的な話・ギャグ・死ネタ・シリアス混合)
SSSでお題というものをやってみました。後日補足を付け足すかもしれません。
配布元様→http://have-a.chew.jp/
どうして?10題
それはね、
1.人より少し不器用だから
2.夜空がきれいだったから
3.きみが泣いている夢を見たから
4.今日も空が青いから
5.いつもより早く目が覚めたから
6.忘れるなんて嫌だったから
7.ことばじゃ伝えきれないから
8.ずっと夢だったから
9.もうすぐさよならだから
10.この世界にきみがいるから
1.人より少し不器用だから
「寝て暮らせる世、か。怠惰な坊やにはお似合いだ」
「…卿には、永劫分からぬ願いだろう」
皮肉に笑ってみせた宗茂に、傍で聞いていた官兵衛が不機嫌な声で返した。
挨拶と化した不毛な口論に意外な相手から口を挟まれ、宗茂は驚いて次の言葉を忘れる。
そしてその目の前で反論していた半兵衛は、感極まったという表情で官兵衛に抱きついていた。
「元就公。何かご存知で?」
先ほどの光景を説明する 宗茂は、毒気の抜かれたような顔をしていた。
元就は一度瞬いて、それはそれは、と嬉しそうに笑った。
「あの子もあれで、他者からは理解されがたい人だからね」
「竹中半兵衛が、ですか?」
人懐こく感情を子供のように露にするあの人物が?と 宗茂は不思議そうに首をかしげる。
どちらかというと黒田官兵衛だろう、と思案していると、元就が寂しそうに苦笑した。
「彼らが二人で居るのは、幸せな事だよ」
2.夜空がきれいだったから
「半兵衛。私の部屋に忍び込むなと何度も…」
「官兵衛殿、俺ね、この場所から見る空が、一番好きなんだよ」
窓を開け放ち、月光の下で穏やかに微笑む半兵衛に、官兵衛は思わず口を閉ざした。
その傍には酒が用意してあり、猪口は半兵衛の手に一つ。盆の上に使われていないものが一つ。
「そして、今日は格別に空が綺麗なんだ。ね、一緒に月見酒でもやんない?」
嬉しそうに猪口を差し出す半兵衛の手から、返答の代わりにと黙ってそれを受け取った。
3.きみが泣いている夢を見たから
こんな土牢の中まで単身会いに来るなんて、どうかしている。
半兵衛は我ながらに苦笑し、しかし暗闇の中で浮き上がる人影に、胸のうちが震えた。
「官兵衛殿が一人ぼっちで寂しくて、泣いてるんじゃないかと思ってね」
「泣くとしたら卿であろう。泣きっ面よ」
ああ、二人して安心した。
4.今日も空が青いから
「絶好の昼寝日和だよねー」
「私の膝を使う必要がどこにあるのだ」
「んー…しいて言うなら、官兵衛殿と、その後ろの窓から青空が見たかったから」
5.いつもより早く目が覚めたから
上手く言いくるめて、官兵衛の部屋で泊まることができた翌朝。
楽しみごとがあった半兵衛は、珍しく日の昇る前に覚醒した。
音を立てぬようにそっと布団から抜け、期待しながら隣を見やる。
「ありゃ?起きてたの?」
「卿が良からぬことを企む気配がしたのでな」
「それは残念だなー。でも、寝起きが見れたから良いや」
夢うつつな瞳、乱れた髪と着崩れた着物。
半兵衛はあまりの嬉しさと感動に、思わず横たわる体を抱きしめた。
6.忘れるなんて嫌だったから
「卿が寝て暮らせる…火種に苦心せぬ世。これで、泰平の世が、築かれた…」
官兵衛は穏やかな心地で、降り注ぐ光に意識をゆだねた。
もう、何者も卿の邪魔はせぬだろう。
7.ことばじゃ伝えきれないから
「なぜそうも、卿は寄り添ってくるのだ」
「触れ合って伝わる事もあるんだよ?官兵衛殿」
「卿の鼓動が速いな」
「そりゃあ、一緒に居られるの嬉しいし、こうしてるの好きだし、あ…官兵衛殿も速くなった」
8.ずっと夢だったから
「官兵衛殿、『生まれ変わり』って知ってる?」
「キリスト教には無いものだが、知ってはいる」
力なく横たわりながらも、いつもと変わらぬような口調を努める半兵衛を、官兵衛は見下ろしていた。
その表情や声からは大きな感情の揺れもなく、ただ事実を受け止めるような様子である。
「俺ね、来世でまた、官兵衛殿に会いたいなあ」
「…そうか」
「平和な世の中で、官兵衛殿と色々見たり、聞いたり、学んだり、したい」
徐々に力なく、消えていく声で、半兵衛は言った。
「今はもう、叶わないから。来世に託すんだよ、官兵衛殿」
「その前に、戦乱の火種を消さねばならぬ」
「もう…こんな時でも変わんないなあ」
そんな所が、大好きだよ。泣き笑いのような表情で半兵衛は続けた。
官兵衛は手を伸ばし、その眦に浮かんだ雫を指ですくう。
「卿が未来で待つというのなら、なおの事。現世を泰平の世にしなければならぬ」
いつもの口調で告げる声音は、かけがえの無い約束のように耳に響いた。
9.もうすぐさよならだから
「最期が泣き顔ってのも、やだな…」
「ならば、卿の得意な寝顔にするが良い」
「もう…ふふふっ、じゃあ、頑張って笑い顔でいってあげるよ」
「笑いながら寝るのか」
「それも良いかもね…
……あ、官兵衛殿。泣かないでよ。俺は最期に、珍しい官兵衛殿の笑い顔見たいんだから」
「無理を言うな。半兵衛」
「ああ…名前…もっと呼んでくれない?なんか寂しくなってきた」
「半兵衛」
「官兵衛殿から手を握ってくれたの、初めてだよね」
「…半兵衛」
「すっごく、暖かい…幸せ。……うん、じゃあね、官兵衛、どの」
「……半兵衛」
10.この世界にきみがいるから
「半兵衛、いつまで寝ている」
眩しさと掛け布団を取り払われた肌寒さに体が反応したが、それを拒否するようにうずくまる。
嫌々目を開けると、黒く長身の影が映った。
「まーだ眠いー」
そのまま横に転がると、先ほどまで寝ていた場所に足が落ちた。
どうやら踏み潰す気だったらしい。
「官兵衛殿…日に日に起こし方が乱暴になってるよ…」
「何をしても起きようとしない卿が悪い」
「もー…ちょっと位寝すぎたって良いじゃないか」
重たく布団に沈み込もうとする体を持ち上げ、無理やり起き上がる。
このまま寝続ければもう片方の足に蹴飛ばされていた事だろう。
「今日は元就公と約束していただろう。急げ」
「あ、そういえば!」
「…やはり忘れていたか」
飛び起きて急いで支度を始める。
官兵衛殿はこうなる事を見越していたのか、周囲に衣類や外行きの用意がされていた。
「官兵衛殿が居てくれて良かったわー」
「戯言はいい。早急に支度せよ」
「はいはーい」
今日も、世は穏やかです。
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