名残夢 もりたまご 忍者ブログ
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【2024/11/23 11:01 】 |
名残夢
(両兵衛・死表現含み・ギャグ色濃い目)

幽霊の半兵衛が居る話
なぜか義トリオも出ます。2の彼らを見ていると、とても純真なイメージなので。




部屋の隅に、その人の跡があった。
だらしなく読みかけの書物が積み上げられて、薄く埃が積もっている。
中心には人間一人が転がれるような空きがあり、使い込まれた枕まで置いてあった。
しかししばらく日に干していないらしく、薄暗さと相まってしんなりと置かれている。
戻ってきた部屋の主はそれを少し視界に入れたが、特に気にした風でもなく放っていた。

この部屋に訪れる物好きな人間はもう居ない。
捨てるように置かれた書物と枕も、増えた仕事量も、誰に見咎められることなく日が過ぎる。

官兵衛はいつものように自室で文机に向かい、薄明かりの中で書を認めていた。
滞りなく進む筆に、特に感情の表れない表情。
仕事の為にと自室に篭りきりなのを遮るものの居ない今、官兵衛は日が暮れるまでそれを続けていた。


「…風?」

軽やかな頬を撫でる空気に眉を顰め、官兵衛は手を止めて振り返った。
窓が開け放たれている。そこから陽気が降り注ぎ、隅に放ってあった枕に惜しみなく日が射していた。
開け放った覚えも、開け放たれる覚えもない。家人すらこの自室に断り無く入ってはこないのだ。

『まーたこんな暗くして。せっかくこの窓は南向きなんだから、開けないともったいないよ!』
『…卿は昼寝がしたいだけであろう』
『だって官兵衛殿の部屋って静かだし、日当たりも良いし、面白い書物もあるし、官兵衛殿もいるし。ね、最適でしょ?』

鮮明な声とともに、指折り数えて笑って見せた半兵衛の姿がよみがえる。
あまりに鮮やかに脳裏に映ったので、官兵衛はその瞬間に戻ってきたような既視感におそわれた。
何度か瞬いて、日の当たる窓を見やる。明かるさに目の痛みを感じたが、食い入るように見つめた。

そして首を横に振る。そんなはずがあるまい。と。
今にも寝息が聞こえてきそうなほどに穏やかな気配を感じるのは、久々に感じた陽光のせいだと決め付ける。

それで無ければ、恐らく疲れているのだ。と官兵衛は思い直す。
茶々を入れる半兵衛が居なくなってからというもの、必要以上に働き詰めてしまっていた。
少し休むのが良いだろうと茶の用意に立つ。


主が出歩いている、と家人に幽鬼でも現れたような顔をされながらも、官兵衛は普段どおりの様子で茶の用意をし部屋に戻る。
だが気づけば、盆の上に二人分の用意をしてしまっていた。
官兵衛はやはり疲れているとため息を吐き、襖を引いた。

いつもの場所に腰掛けて、違和感に気づく。
書の場所が移動してはいないか。そう、まるで半兵衛が侵入した後のような散らかりようだ。
どの書物も埃が払われていて、読みかけの書があの枕の近くに落ちている。

官兵衛は眉を顰め、風でも吹いたのだろうと判断し、用意した茶を飲んだ。
すると今度は枕のあたりから、物欲しげな視線のようなものを感じる。
以前、菓子が欲しいと強請った半兵衛の視線を思い出し、訝しげにそちらを見やった。

しばらくの間どうしたものかと考えたが、何となく居心地が悪いので、
供え物の気分で盆に載った残りの茶を枕の傍に置いた。
すると物欲しげな視線が消え、再び先ほどの穏やかな気配を感じ取る。

「…半兵衛」

つい口にした名前。
何を馬鹿なと後悔するが、それに反応したかのように、枕の傍の湯飲みから水の波紋の音がした。
偶然にしてはどうにも落ち着かない。

何より、先ほどよりこの部屋の空気が変わっている。
体は目の前に半兵衛が居るのだと、感じ取っていた。






それからというもの、官兵衛は半兵衛の気配を否定しようのないほどに見せ付けられた。
自分以外居ないはずの部屋で、見ていない隙に物が移動するのは日常となり、
差し入れられた菓子を置けば、手をつけぬのに次第にその数は減っていく。
以前半兵衛に使うようにと置いていた筆が勝手に使われ、
文机の上に、見覚えのある細い字体で「ただいま」と書置きがあった。
室内には懐かしい残り香が漂うようになり、書を読んでいると膝に重みを感じる事もあった。

悪戯にしては不可解に過ぎる。

存在を知らしめようと半兵衛が楽しげに仕掛けている様がありありと浮かび、官兵衛は諦めのため息を漏らした。


先日、こんなことがあった。

「黒田殿…それは、何だ」
「…それ、とは?」

特有の兜をかぶり、白い衣服に身を包んでいる目の前の男は、確か直江と言った。
ほとんど初対面の上に、特に用もないはずなのだが、その御仁は官兵衛に話しかけてきた。
訝しげな視線でじっと見てくる兼続に、官兵衛は何事かと眉を顰める。

すると、子飼いの石田三成と、こちらも初対面の真田幸村が興味津々といった表情で寄ってくる。
それぞれ一癖も二癖もありそうな火種だと官兵衛は覚えていたが、こうして集まると童のようである、と思った。

「柔和な顔立ちの、白い軍師のような方が見えます」
「確かに…待て、この御仁は竹中殿ではないか」

三人は官兵衛の方を、正確に言えば官兵衛の背をじっと目を凝らして見つめている。
半兵衛に会ったことの無いはずの幸村がそれらしき容貌を言い、
昔より半兵衛を知っていた三成は驚いたように名を言った。

すると口々に三者は議論をし出し、兼続が情報を出し、幸村が返し、三成が確認をするといった風に話は進む。
この者たちに一体何が見えると言うのかと怪しんでいると、議論を終えたらしい三人は此方を輝いた眼差しで見た。

「つまり、黒田殿は竹中殿に取り憑かれているのだな」
「なるほど。何とも不思議な話ですね、兼続殿!」
「まぁ…あの方ならやってのけそうでは、あるな」

「…卿らには何が見えているのだ」

先ほど聞こえた、『取り憑かれている』とは物騒だ。
普段ならば構いもしない官兵衛だが、思い当たる節があったので問うてみた。

三者は驚いたように顔を見合わせ、小さな声で「見えてないのだろうか?」などと話し合った。
見えていない官兵衛のほうが妙だといった雰囲気になっているので、どことなく理不尽さを感じる。

「私には背中に、若き御仁が負ぶさっているのが見える」
「私にも薄く見えます。ああ、手を振っていますね」
「俺にも見える。竹中半兵衛殿に相違ない風貌だ」

兼続、幸村、三成と口々に言い、その真剣な表情に悪戯の類でない事を感じ取る。
子飼いの三成の性格からしても、こういった類の嘘は吐かないと官兵衛は知っていた。

官兵衛は試しに振り返ってみるが、ただ陣の整えをする兵士が見えるばかりである。

「見当たらぬ」

やや憮然として低い声で官兵衛が呟くと、幸村が「あ」と声を上げた。
何事かと見やると、急に背が重たくなる。人一人を背負うような重みである。
官兵衛は急な負担に耐え切れず、膝を付いた。

「怒っておられます」
「…そうか」

こういう芸当もできるのか半兵衛、と僅かに感心した。

その後三成の訴えを聞いた島左近という男が官兵衛を見に来たが、首をかしげて笑うだけに留まった。
兼続や幸村も必死に訴えているが、やはり常人には見えはしないらしいと分かった。

それからと言うものの、子飼いの三成は出会うたびに物言いたげに官兵衛の背を見る。
そして三成が驚いたように目を見開くと、決まって何かしら半兵衛が自己主張しだすのだ。


そうしてやっと渋々、官兵衛は半兵衛の存在を認めた。







月の光が明るい夜、開け放たれた窓辺に薄っすらと白い影が見えた。
目を凝らしてみると、それは半兵衛くらいの大きさをしている。
その影は官兵衛がこちらを見ているのに気づいたのか、少し首の辺りを動かして、此方に歩いてきた。ように見えた。
そして両手を広げて飛びついてくるかと思うと、月の光が届かぬあたりで影は掻き消えてしまった。
残ったのは緩やかに香る何かの香だ。これは半兵衛が近いときによく匂うと官兵衛は覚えていた。
そして首の辺りに僅かな重みを感じる。恐らく抱きついているのだろう。

官兵衛はそのまま窓際に移動し、自身に白い影が纏わり付いているのを見た。
窓から空を見上げると、やや丸くなった月が光を落としている。

「半兵衛、見えぬからと言って抱きつくな」

表情こそ見えないが、影の動きからとても驚いているのが分かった。
官兵衛はそれに僅かに口端を歪め、影の頭の辺りを撫でてみる。
触感は全く無かったが、白い影が擦り寄ってきたのを見て、僅かに目を細めた。

半兵衛は、月の光に映るらしい。


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【2010/02/14 17:40 】 | 両兵衛 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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