ねこものがたり もりたまご 忍者ブログ
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【2024/11/23 10:36 】 |
ねこものがたり
(両兵衛・猫視点)

猫視点で両兵衛の話。最初はほとんど猫の一人話です。







縄張り争いに、敗れた。

痛む体を引き摺りながら、住処から離れる。
道行く人間が眉を顰めこちらを見やるが、嫌悪の眼差しに慣れていた猫は、気にせず手足を動かした。

早急に、新しい住処を探さねばならない。
落ち着いて怪我を癒すにも、餌場となる良い場所が要る。
猫は空腹感と敗北感に、どうしようもない心地になった。

他の猫の臭いがある場所へは住み着けない。
自然とその臭いを避けて歩んでいると、何も無い山の中へと出てしまった。
そのまま山で野生として生きようかとも思ったが、慣れぬ体で動物を獲るのは難しい。
やはり人間の住処の近くで残飯を漁るのが一番効率が良いのだが、良い場所には先客がいるものだ。

ひとまず寝床を探そうと歩き進んでいくと、人間の臭いがした。
食べ物を料理する匂いもする。

猫は期待を胸に、痛む足を叱咤して、そちらの方へ向かった。


そこは大きな屋敷であった。

たくさんの人間が行き交い、それぞれ働きまわっている。
塀の隙間から潜り込むと、整えられた、梅の木の庭と立派な建物が見えた。
その裏手の方で、先ほどから良い香りが漂ってきている。

人間に見咎められ無いように軒下や木々の間を縫うように進む。
他の猫の臭いはしない。しかし他の動物はいるかもしれない。猫は慎重に進んだ。

食べ物の匂いが濃くなった。
忙しなく動き回る人間の女たちが見える。
あれは台所というものだと猫は知っていた。あそこで人間は食べ物を料理する。
そこで発生する、残飯や生塵が猫の食べ物になる。近くにその入れ物があるはずだ。

猫は台所入り口付近を様子を伺いながら歩く。
しかし、捨てられるらしき残骸は無かった。
中に置いているのだろうか。不思議に思って、積み上げられた桶に乗り、近くにあった窓から中を覗く。

猫は中の様子に驚いた。

本来捨てられるであろう食材の残り、魚の骨や皮までも鍋で煮込んでいるのだ。
捨てられる物は本当に食べられぬものばかりで、無駄なく利用されている。
猫の今までの記憶からすれば、裕福な者の食べ物ほど、捨てられる物が多い傾向にあるはずだった。

これだけの屋敷に住みながら、実は貧しい暮らしでもしているのだろうか。

猫がそうして眺めていると、出入り口から優しそうな人間が出てきたので、猫は媚を売ろうと駆け寄った。
見上げて一声、高めの声で鳴いてやると、人間の女はこちらを見て驚いた顔をし、そして破顔した

「あらあら、どこから来たの?おまえ」

喉を鳴らしながら寄っていくと、優しく頭を撫でて話しかけられる。
食べ物を貰えぬか、と甘えていると、もう一人、女が出てきた。

「おや、猫かい?」
「ええ、どこからか入り込んできたみたい。食べ物の匂いに釣られたのね」

今度は首の下を擦られ、猫は心地良さに目を細めた。
人間の女から、食べ物の良い香りがする。

「怪我をしているようだし、可哀想だわ。何かあげられるものは無い?」
「ここの主人様は倹約家だからねえ。そんなに残飯とかは無いんだけど」

一人の女が台所に行き、手に何かを持って戻ってきた。
差し出された手を見ると、煮出された後の魚の残骸だった。
鼻を近づけて匂いを確かめる。舐めてみると、薄く魚の味がした。

しばらくぶりの食べ物に無心になって食らいつく。
煮込まれて柔らかくなった骨は、簡単に牙で砕けた。
一通り食べ終えると、人間の女たちは猫を一撫でして台所へ戻っていった。

腹が満たされたので、猫は次なる目的である寝床を探そうと歩き出す。

人気を避けて歩き回ると、先ほどの梅の木の植わった広い庭に出た。
軒下などを見回してみるが、風通しが良く、寝床に良さそうな場所は見つからない。

ふと屋敷を見ると、戸が開け放たれている。
障子戸も開けられていて、中の部屋が見えた。
見つかっては大変だが、今周囲に人間の気配は無い。

猫は意を決して中に入り込んだ。


爪を立てないように畳の上を歩き、周りを伺いながら進む。
整理された部屋は、部屋の主の性格を現しているような雰囲気があった。

手に伝わる畳の感触が想像以上に心地良い。
その場に転がってみると、なるほど、人間が畳を好む訳が分かった気がした。
そのまま居心地のよさにまどろみ始める。危険だと思ったが、怪我と疲れがどっと押し寄せてきた。
猫は眠気に抗いきれず、そのまま眠りに落ちた。


「…あれ、先客だ」

男とも女ともつかぬ高めの声が聞こえ、猫は目を覚ました。
白い服を纏った人間が、こちらを興味深げに見下ろしている。
逃げ出そうかとも思ったが、目の前の人間に悪意は感じられない。
痛む体はまだ重い。できるだけ猫は転がって居たかった。

「官兵衛殿の猫かなあ…世話してる姿なんか想像が付かないけど」

細い指先が猫の毛並みを突付いた。
振り払うのも噛み付くのも億劫で、猫はされるがまま、ただ人間を見上げる。

「ねえ、そこ俺の場所なんだけどー、猫さん」

そう楽しそうに笑って、再度毛並みを突付く。
だが猫は退かない。この場所は日当たりと風とおりが丁度良い。きっと目の前の人間もそれを知っているのだろう。

「仕方ないな。今日だけは譲ってやるよ。代わりに隣を使わせてよね」

一つため息をついて、人間は猫の隣に転がった。
柔らかな香の香りが漂う。嫌な匂いではない。
そしてすぐに寝息を立て始めた。様子見に鼻先で突付き返してやるが、反応は薄い。

人間の癖に猫のような奴だ。と妙に思ったが、害は無いようだし、猫は再び眠りについた。



「半兵衛よ、幾度も言うが…勝手に屋敷に上がるな」
「んー…あ、官兵衛殿、おかえり」

また別の低い声が聞こえ、隣で眠っていた人間が目を覚ました。
猫も同じく目を覚まし、隣の人間同様に欠伸と伸びをする。

「…その猫は何だ」
「え?官兵衛殿の猫じゃないの?」
「知らぬ」

二つの視線が猫に集まる。
もう十分休んだので、追い出されても構わなかったが、とりあえず寝床の礼にと一つ鳴いた。

「この猫怪我してるよ。官兵衛殿、手当てしなきゃ」

細い手が伸びてきて前足を掬うように、猫は持ち上げられた。
後ろ足と胴が伸び、力なくぶら下がる。
黒い人間と目が合った。持ち上げている人間とは違い、中々に凶悪な面をしている。

「…この程度ならば、自己治癒するだろう」
「そういうもんなの?」
「少なくとも、卿よりは逞しく生きる」

後ろから不貞腐れた声が上がり、猫はそのまま抱きしめられた。
怪我に差し障りは無いが、非常に持ち方が悪い。

猫はこの想いを伝えようと、目の前の黒い人間を見つめた。
すると意思が伝わったのだろうか、人間の眉が顰められる。

「そろそろ、猫を放してやれ」
「えー。この猫枕にしたいくらい柔らかいんだよ」
「放してやれ」

有無を言わさぬ口調に、渋々といった動作で猫は畳に下ろされた。
猫はもう抱き上げられないように、黒い人間のもとへ駆け寄る。
その足に寄り添うようにくっ付くと、白い人間の不貞腐れた面が見えた。

「何で官兵衛殿に懐くんだよ…さっきまで一緒に寝てた仲なのに」
「卿によく似ている」
「…なんだよ、それ」

僅かに笑いを含んだ低い声に、白い人間の顔が赤くなった。
白い人間は大層うろたえているようだ。

「構われ過ぎるのを厭うだろう」
「ああ、そういう話ね。なるほど」

黒い人間がそっと猫を撫でた。
この撫で方は優しくて良い。猫は喉を鳴らして擦り寄った。
白い人間は面白いように頬を膨らませている。

「猫には優しいんだ」

拗ねた声を上げて白い人間は黒い人間を睨み上げた。
もしや、猫に嫉妬でもしているのだろうか。
人間とは不可解な生き物である。

黒い人間はそれに数度瞬いて、猫から手を離し、白い人間の頭をそっと撫でた。

白い人間が目を見開き、声にならぬ叫びを上げるのを、猫は見た。
先ほどとは比べ物にならぬほどに赤くなり、硬直している。

「満足か?」
「…かんべえどのの、ばか」

手を放されると、白い人間は呻くように言って蹲ってしまった。
嫌だった訳では無いらしいが、この反応は猫にとって良く解らないものである。

近寄って行って顔を覗き込むと、切羽詰ったような表情が見えた。

「撫でてもらったのが嫌だった訳じゃないからね!じゃ、俺は用事思い出したから!」

そして突然立ち上がり、叫ぶように言葉を発してから顔を見せぬようにして立ち去ってしまった。


部屋に残されたのは黒い人間と、猫だけだ。
恐らくあの人間は、この黒い人間にただならぬ思いでもあるのだろう。と猫は思った。

黒い人間はどんな顔だろうと見上げてみると、理解できぬといった表情である。


この人間は、もしかしたら猫より疎いのかもしれない。


白い人間を少しだけ、哀れに思った。
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【2010/02/28 23:39 】 | 両兵衛 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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